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三年生編 第96話(8) [小説]

「はああ……自分から助けてくれって手を差し出してくれ
る人には、なんとかなるよって励ませるですけどね。これ
まで僕はずっとそうしてたんで」

「うん」

「でも、助けてくれって言わない人……いや、それどころ
じゃなく、自分の境遇を考えない人ってのは初めてです」

「……」

「見ての通りで、彼女は間違いなく美少女です。それも同
年代の男の子にもてそうなアイドル系。あの容姿で中身が
ロボットなら、悲劇しか待ってない。そこがね」

「うーん」

「もっと厄介なことがもう一つあるんですよ」

「もっと厄介?」

「そうです。これまでいろいろあっても、今弓削さんは伯
母に後見してもらえてる。ケアを受けられてる。これまで
以上に状況が悪化することはないんです」

「……そうね」

「でも、同じくらい壊れてて、これまで以上に状況が悪化
しそうな人がいるんですよ」

「弓削さんでなく?」

「はい」

「どなた?」

「しゃらの兄貴。弓削さんを、しゃらんちに連れ帰ってし
まった人」

「帰って……きたの?」

「はい。最悪の形で」

「……」

「お兄さんがしでかした行為は、外から見たら悪魔の所業。
でもね、しゃらのお兄さんにも自我がない。自我が徹底的
に壊れてる。弓削さんとの違いはなにか」

「うん」

「成人してる男。そこだけなんですよ」

「……」

「僕は……弓削さんよりしゃらが心配なんですよ。最悪の
状況だったしゃらを、僕や友達、会長、みんなで寄ってた
かって持ち上げた。しゃらはすっごい元気になったから、
みんなはもう大丈夫だって見ちゃう」

「違うの?」

「あいつは今むちゃくちゃしんどいです。実家が賭けに出
た。借金して、新しい店を出すことにしたんです。そのタ
イミングで、お母さんが難病で倒れた」

「う……そ」

会長の顔から血の気が引いた。
会長は、しゃらのお母さんの病気のことは知らなかったん
だろう。
しゃらも、事情をほんの一部の人にしか漏らしてない
から。

「お母さんが具合悪い時には、しゃらが家事をこなさない
とならない。受験勉強して、家事をこなして、バイトし
て……。あいつは、今いっぱいいっぱいなんです。そこに
お兄さんが弓削さん連れて転がり込んできた」

「それは……うーん」

会長は、伯母さんとは違う。
自分もしんどい状況を経験してるから、しゃらの危機的状
況をしっかり認識してくれたと思う。



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