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【SS】 栄冠は君に輝く *副の神* (菅生 君彦) (二) [SS]


正直。
俺はどこでも浮く。
みんなの話の輪に入るってことが苦手でしょうがない。

何人か集まっている中でどんな話題が出ていても、俺が何
か言ったとたんに場がしらけるんだ。
話の揚げ足を取ったり、腰を折ったりしてるつもりはない
んだけどな。
どうしても乗りがみんなとシンクロしない。ずれっちまう。

プロジェクト以外だと、それは解消していない。
クラスでは陰キャで通ってるし、実際絡んでくるやつはほ
とんどいない。

高校に来る前も、ずーっとそうだったんだ。
俺がなにかしたり言ったりしてるわけじゃないのに、いつ
の間にかハブられてる。
俺も別にいいかあで開き直っちまうから、ますます浮くん
だ。

このままずっと行っちまうのはまずいよなあと思いながら
も。
俺は、自分を大きく変えたり折り曲げたりするつもりはな
かったんだ。まあ、しゃあないかって。

でもプロジェクトの二年メンバーは、最初っからどっかネ
ジが抜けてるやつばっかだったんだよ。

責任感だけを燃料にして、ひたすら突っ走っちまう鈴ちゃ
ん。
なんでもかんでも一人で処理しようとして、最後に自爆す
るトオル。
危機感のセンサーが壊れてて、状況がまるっきり見えてな
い黒ちゃんやバタやん。
兼部をいいことに、露骨に手を抜くキタやタカやん。

なんだこいつら、揃いも揃ってひでえなあと思いながらも。
ああ、俺もそんなもんかと思えばすごく気が楽だった。

もし工藤先輩や篠崎先輩みたいな緻密な人が同期だったら。
俺の居場所はいつの間にか取り上げられちまったかもしれ
ない。
でも二年生は全員適度に抜け作だったから、俺みたいなぬ
らりひょんはみんなのパーツの隙間にすっぽり入りやす
かったんだ。

まあ、あれだよ。
困った時にだけ拝まれる仏像みたいなもんだな。
普段は何もご利益がないけど、緊急時にどろんと正体を現
して、お告げでござると口を開けばいい。

その時にみんなの見えてなかったところを指摘すれば、不
具合が改善されて、なんとなくうまく動くようになる。
めでたしめでたし。

にやにやしながら、仏像になった自分をもやもや妄想して
いたら。先生に全力で突っ込まれた。

「菅生くん、何考えてんの?」

「俺っすか? 何も考えてないっすよ」

「今、笑ってたじゃない」

「ははは。いや、コンテストで入賞してよかったなーって」

「ったく。どこまでズレてんだ君は」

「はははははっ」

ひとしきり笑ってから、先生に課題を投げ返した。

「先生、俺が思うに」

「うん」

「いろんなポジションの中で、副っていうのが一番あいま
いだなーと思うんす」

「あいまい……か」

「はい。でもね、それが悪いんじゃなくて、そうしておく
必要が絶対にあるんじゃないかなーと」

「ああ、わかる。初代の御園さんと君とでは、同じ副でも
役回りがまるっきり違うものな」

「そうでしょ?」

大きく息を吸い込み、それを吐き出すと同時に溜まってい
た思いを言葉にした。

「俺が。俺がこのプロジェクトに入って一番よかったなー
と思うのは、ジャストそこっす」

「ふむ」

「役割はあるんすよ。俺だけでなく誰にもね」

「そうだね」

「でも、その役の形が最初からかっちり決まってると、ど
うしても入れるやつ、入れないやつが出ちゃう」

「うん」

「工藤先輩は、そこを自由に動かしていいって言った。俺
らを変えるんじゃなくて、入れ物を変えりゃあいいじゃん。
そういう考え方が」

「ぴったりだったということだな」

「はい。俺にとってはそれがベストで、それが全てっす」

先生が目を細めて笑った。

「ふふふ。私もそうだ。猫拾いをしてた時より、今の方が
ずっと楽だからな」

「猫拾い、すか?」

「そう。みんな、いろいろ抱えてここに来るのさ。最初私
は、それを個別にケアしてたんだよ。工藤くんも御園さん
もそうだ」

「へえー。知らなかったっす」

「でもね。ぴったりの居場所を探して個別にあてがうの
は、本当にホネなんだよ」

先生が、ふっと小さく息を漏らした。

「居られる場所がなければ、場所自体を作ってしまえばい
い。そういう建設的な考え方は工藤くんならではだ。その
理想を体現したのがプロジェクトだな」

「そっすね」

「そういう精神だけは残していきたいよな」

俺は、ぐんと頷いた。

「本当に、そう思うっす!」

ぱんと机を叩いて、先生が立ち上がった。

「現執行部でまだ行くってことだな。安心したよ。その間
に、後輩たちをしっかり仕込んでほしい」

「うっす!」

「頼むよ。副の神!」

ずでっ。なんじゃそりゃ。






ca1.jpg

(チャ)





(補足)

菅生君彦(すごう きみひこ)は、プロジェクトの副部長
です。

鈴木さん、四方くんがそれぞれ愛称で呼ばれるのに対し、
彼はそのまま「すごーくん」ですね。
それが、彼の立ち位置をよーく現してます。

決して怠け者ではなく、ちゃんと鈴ちゃんやトオルくんを
サポートしてるんですが、目立ちません。まさに補佐役で
すね。
彼はプロジェクト以外に掛け持ちがないので、一番柔軟に
動けるんです。

でも、彼は三人の中で一番の硬派です。その硬派の部分を
普段は全く見せない……つーか見せる必要がないだけ。
いつもがとても地味な分だけ、彼が動き出すとそのインパ
トははんぱじゃありません。

コンテストの実査でお客さんが来校した時の騒動。
マネージャーを通さずにイベントを組んでしまったしゃら
たちを、全力でどやしたのは彼なんですよ。







The Place To Be  by Asa

 


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JUNKO

可愛いピンクのお花が出迎えてくれました。今年もどうぞ宜しくお願いします。
by JUNKO (2020-01-05 15:07) 

水円 岳

>JUNKOさん

今年もどうぞよろしくお願いいたします。
どうぞご自愛くださいね。

健康で、豊かな一年になりますように。(^^)

by 水円 岳 (2020-01-06 00:05) 

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