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【SS】 栄冠は君に輝く *汚れ役* (四方 透) (二) [SS]


「汚れ役、か」

親父が、なんとも言えない顔で俺を見下ろしている。

「そう。みんなから無理やりマネージャーを押し付けられ
たんなら、俺一人に泥おっかぶせやがってって放り出すけ
どさ。やるって手ぇ上げたのは俺だからなあ」

「おいおい」

呆れ顔してるなー。あはは。

「マネージャーってのは、すごく難しいポジションだぞ。
できて当たり前。できなきゃぼろっくそだからな」

「わかってる。だから、ずーっとしんどかったんだ」

「今まで、うまくこなせてたのか?」

「うーん……」

胸を張ってこなしてきたと言いたいところだけど、そうは
言えない。

「合格点はなんとかクリアしてると思うけど、俺的にはま
だまだかもしれない」

「ほう。どこが、まだまだなんだ?」

「汚れることを、嫌だなあと思ってしまうから」

「なるほど」

なぜか、妙に納得した顔をしている。

「実にいい勉強をしてるな」

「そう?」

「ああ。社会に出れば、誰でもマネージャーだよ」

「へえー。そんなもんなのか」

「そりゃそうさ。独りっきりで誰とも関わらずに暮らすな
らともかく、誰かと一緒に多くの時間を過ごすのが社会っ
てやつだよ」

「うん」

「その中の誰かは必ずマネージャー……汚れ役をやらんと
ならんのさ」

親父が俺の隣にどすんと腰を下ろした。

「たとえば」

「うん」

「俺とトオルの間だってそうさ。親子であっても、どっち
かがマネージャーだ」

「あ、確かに!」

「だろ? まあ親子の場合は、普通年長者の親がマネー
ジャーになる。泥被りは親の仕事だ」

「そうかー」

「でも年恰好が揃っている時には、その中の誰かが必ず泥
をかぶらないとならないんだよ。そうしないと、世の中が
回らないんだ」

にやっと笑った親父が、俺の肩をばんばん叩いた。

「一度泥をかぶれば。汚れ役を経験すれば。いろんなとこ
ろに目が届くようになる。嫌がらずに一緒に泥をかぶって
くれるやつを、ちゃんと見分けられるようになるんだ。そ
うだろ?」

確かにそうだ。そして、俺を手伝ってくれるやつは間違い
なく増えてる。
マネージャーを始めたばかりの頃より、仕事量も精神的負
担も軽くなってるんだ。

「うん。汚れっぱなしじゃないってことか」

「そりゃそうさ。汚れ役は必ず尊敬される。逆に、汚れ役
なのにきれいなままだと無能扱いだよ」

「あたた……」

ここらへんでいいやって手を抜いてたら、マネージャー権
限発動の瞬間、本当に汚れちゃうってことだ。
うう、こわいこわい。

「苦労は買ってでもしろ。昔からそう言うが、苦労しまし
ただけじゃ、なんの財産も残らん」

「そうだね」

「苦労が入賞って形で実ったんなら、そらあ最高だよ。マ
ネージャー冥利に尽きるってやつだ!」

親父に手一杯持ち上げられて、やっとこさ受賞の喜びがじ
わじわ体を満たし始めた。

「汚れ役をやってきて……本当によかったと思うわ」

「そらそうさ。一番汗水たらしたやつが、一番おいしいと
ころを取れる。だからこそ汚れ役が機能するし、やりた
いってやつが出るんだよ。そんなもんだ」

上機嫌の親父が、テーブルの上に置いてあった車の鍵を
がっと掴んだ。

「トオル、着替えてこい。うまい寿司を食いに行こう! 
受賞祝い兼慰労会だ」

「やりぃ!」

◇ ◇ ◇

工藤先輩や篠崎先輩だけじゃない。
同じ部の仲間は、ちゃんと俺の働きを見てくれてる。
親父も、しっかり評価してくれた。
俺が汚れっぱなしで放置されたことは、一度もないんだ。

だから……今までマネージャーをやってこれたのかなと。
そう思う。

「さあ、がっつり食うぞおっ! ひゃっほーっ!」




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(チリメンタケ)





(補足)

トオルこと四方(しかた)透は、ハートガーデンプロジェ
クトのジェ
ネラルマネージャー。
二年生部員の中では一番性格が明る
く、発想がポジティブ
です。行動力も調整力もあって、本
来なら一番部長向き
だったかもしれません。


でも自分一
人が先走ってしまうことを恐れ、サポートに
回ったんです。

独善性の弊害は、部長というポジションだと致命的になり
ますから。

有能な四方くんでも大所帯の部を調整するのはもの
すごく
大変で、ストレスのせいで何度かぶち切れてますね。


いっきたちプロジェクト創設メンバーは、四方くんが潰れ
ないよう陰に陽に彼を支え続けています。







Dirty Work by Steely Dan

 


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