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【SS】 栄冠は君に輝く *汚れ役* (四方 透) (一) [SS]


「ふ……」

高校ガーデニングコンテスト受賞の発表で部員たちの喜び
が爆発している中、たぶん俺一人だけ苦笑いしてたと思う。
あーあ、これでまた仕事が増えちまうなあと。

確かにものすごく嬉しいんだけど、同じくらいの苦味も感
じながら。
いつものように、中沢先生との打ち合わせや今後の水やり
のスケジュール調整をして、暗くなってから家に帰った。

「お? トオル。どうした?」

今日は親父が早く帰ってきたらしい。
うちはお袋がいないから、親父が一人二役だ。
俺の機嫌や様子の変化はすぐに見破られちまう。

制服のままでソファーに体を投げ出し、でっかい溜息をは
あっとついた。

「いや、すごくいいことがあったんだけどさ」

「ほう? おまえにか?」

「いや、部が。ハートガーデンプロジェクトが、高校ガー
デニングコンテストで審査員特別賞を受賞したんだ」

「おおっ!」

親父が大仰に驚く。

「そらあすごいじゃないか!」

「そう思う。初挑戦で、いきなり受賞だからね。部だけ
じゃなくて学校内もがっつり盛り上がってる」

「その割には、おまえの反応が地味だな」

「ははは。どうしてもそうなっちゃうんだよなー」

「は? どうしてだ?」

もう一度、でっかい苦笑いをぶちかましちゃった。
それは、すんなり喜べない俺自身に対しての苦笑いだ。

「俺が。マネージャーっていう汚れ役をやってるからさ」

◇ ◇ ◇

俺は、調整っていう仕事を甘く見てたんだ。

調整っていうけど、部活の実質裁量権は調整役にあるんだ
よ。それくらいの意識でやっていいから。
前部長の工藤先輩やそれまで調整をやってた篠崎先輩にそ
う言われて、俺自身もその気になって。
引き受けてやってみたら、とんでもなかった。

俺が調整しなければならない仕事の多さが、はんぱなかっ
たんだ。
ひいこら言いながら仕事をこなしてたら、篠崎先輩に言わ
れた。

「トオル。一人で抱え込むなよー。僕らだって、僕ともも
ちゃんとうっちーの三人で分担してやってたんだ。ちゃん
と調整班のメンバー動かして、仕事割り振ってね」

それはわかってる。よーくわかってる。
仕事はちゃんと、サブマネのキタと黒ちゃんに割り振った
んだ。
だけど、それがきちんと動いてくれない。なかなか機能し
なかった。

先輩たちが補佐してくれる分だけ、他のメンバーが手を抜
いてしまうんだ。
縛りのきつくないゆるい部活……その弊害だけが俺にど
どっと押し寄せてしまった。

ただのマネージャーというだけじゃなくて、チームを作
り、それを指揮する権限を持ったジェネラルマネージャー
の創設。
俺らが最初にプランを立てた時には、それで行けると思っ
てた。

甘かった……。
どんな名前であっても調整は調整なんだ。
俺は、マネージャー権限がみんなから無視されるというこ
とを予想できなかったんだ。
権限なんか絵に描いた餅に終わるってことをね。

よーく考えてみたら、そうなるよな。
強い権限を行使した時点で、俺一人が悪者になってしまう。
自分勝手で、なんでも思うようにしたがるやつ……そうい
う見方をされてしまう。

俺は、どうしてもそれが嫌だったんだ。
だから結局、俺一人で相撲を取るはめになってしまった。
重荷を背負いきれなくて潰れそうになったことは、一度や
二度じゃない。
部の執行体制作りは俺が中心でやったから、誰にも文句が
言えなくて……本当に苦しかったんだ。

「なんでもかんでも俺に押し付けるなよっ!」

コンテストの現地審査の時、女子たちが俺抜きにスタンド
プレイをぶちかまして、校長にがっつり睨まれた事件。
俺は……とうとう感情を爆発させてしまった。

高校生にもなって、みんなの前で泣きながらぶち切れる。
ものすごく恥ずかしかったけど。
ああ、それでいいのかって。どこかでほっとしている俺が
いた。

そして。俺より激しく工藤先輩がぶち切れた。
工藤先輩は俺みたいに感情的にならないから、怒ると逆に
怖い。
逃げ場を全部埋め立てて、理詰めでごりごり来るんだ。
工藤先輩の筋論を真正面から押し返せるやつは、そうそう
いないと思う。顧問の中沢先生さえ叩きのめすんだから、
本当にしゃれにならない。

まさか、首謀者を俺の前で土下座させるとは思わなかった
わ。こわいこわい。

工藤先輩には、しんどい時にずいぶん助けてもらった。
と同時に、一番汚いところを工藤先輩に任せてしまったこ
とがあって、すごく心苦しかったんだ。

でも、工藤先輩に言われたんだよな。

「おいしい料理を作るコックさんがいても、みんなが見る
のは料理だけさ。庭だけじゃなくて、部活っていうのもそ
んなもんだと思う」

汚れ役を請けるなら、最後まで汚れ切る覚悟が要る。
汚れなくても済む部員は、汚れ役のしんどさをちゃんと想
像できるようにならないとダメ。

それは。先頭に立っての旗振りから、調整、そして部員と
しての末端の仕事まで、全て経験してきた工藤先輩のリア
ルな実感なんだろう。

必要性は十分認めるけど、汚れ役の役得は苦労に見合わな
い。
コンテストでの受賞を俺が素直に喜べなかったのは、ジャ
ストそこなんだ。
一番苦労したのは俺。でも、脚光を浴びたのは部長。
それにすんなり納得できなかった俺が……いたんだ。






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(カワラタケ)











Dirty Paws  by Of Monsters And Men

 


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