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【SS】 栄冠は君に輝く *長の花* (鈴木則子) (二) [SS]


「いろいろあったよね……」

何でも一人で抱え込んでしまうわたしの悪い癖。
小中の時に何度も失敗したのは、きっとそのせいなんだろ
う。

みんながやらないなら、わたしが。
そうやって、何もかも抱え込んで自滅する。
懲りもせず同じことを繰り返してきてしまった。

でもわたしが部長になる時に、工藤先輩がとても上手にサ
ポート体制を整えてくれた。

調整を四方くんに全部任せられたから、わたしは学校側と
の交渉や旗振りに専念できた。
わたしがこなし切れない部分は、副部長の菅生くんがこそっ
とサポートしてくれた。

三役っていう言葉が、飾りじゃなくてきちんと機能したっ
てこと。
わたしは初めて長の付く役をこなしていることにカタルシ
スを感じたの。
そう、これ。これが欲しかったんだって。

だけど、沢渡校長ともめた時に校長の圧力を体を張って押
し返したのは、わたしじゃなくて工藤先輩だった。
それが……本当に申し訳なかった。
本当はわたしがやらなきゃならなかったんだよね。
悔し涙を流したのは、誰かを責めるためじゃない。
自分の意思の弱さと力不足を思い知らされたから。

そのあと心を入れ替えてプロジェクトを立て直し、コンテ
ストに応募して。
わたしは部長として全力で突き進み、こうして何にも代え
がたい栄誉を手に入れた。

賞を取ったことが嬉しいんじゃない。
長として全力ですべきことをして、その努力をみんなが正
当に評価してくれたこと。
それが、どうしようもなく嬉しかったんだ。

校長の受賞発表のあと壇の上に呼ばれて、そこで絶叫した
こと。

「みんなにっ! ありがとおーっ!」

あれは、わたしの心の底からの叫び。
長の名前に押しつぶされないよう全力で支えてくれたみん
なへの、感謝の絶叫だったの。

◇ ◇ ◇

リビングでお母さんと大はしゃぎする。

「ねえ、授賞式あるんでしょ?」

「あるあるっ。東京のホテルで」

「わあお! みんなと行くの?」

「部員全員で行こうって話してる。中沢先生が取りまとめ
してるの」

「そっかあ……花満開だねえ」

「うんっ!」

わたしは、応募した時に使った中庭での集合写真をじっと
見つめる。

高校の中庭に植えられているのは、その多くがありふれた
単色の花。その組み合わせで景色を作る。
でも、ポイントに置かれている目立つ花もあるんだよね。

地の花は置き換えが効く。
でも、ポイントの花だけは替えが効かない。
その花が咲かなければデザインが成り立たないから、必ず
花を咲かせないとならない。

長の花っていうのは、そういうものなのかもしれない。
その花は、必ずしも目立つ、派手な、美しい花っていうわ
けじゃない。
でも、その花がなければデザインが崩れちゃうんだ。

絶対に咲いて見せるって、わたしはがんばった。
そして……わたしが咲きやすいように、先輩たちや仲間が
わたしを押し上げてくれた。

喉が渇いたら水をくれた。
お腹が空いたらご飯をくれた。
害虫が来たら追い払ってくれた。
病気になったら看病してくれた。

だから負けるものかって、がんばれたんだ。
わたしっていう……長っていう……たった一本しかない花
をこうやって咲かせることができたんだ。

じわじわと涙が溢れてくる。

長の花。
プロジェクトからいろんな財産をもらえた子は、わたし以
外にもいっぱいいると思う。
でも、長として花をもらえたのはわたし一人なんだ。

こんなでっかい幸福を独り占めしていいのかって、そう
思っちゃうけど。

やっぱ、うれしいーーーーーーっ!!

「さあ、次、だなー」

「次?」

「そう。わたしが部長を引き受けた時に、工藤先輩に言わ
れたの。楽しさをつないでいこうって」

「ふふ。そうね」

「部長はおもしろい! こんな楽しいこと、他の人には譲
れないよ。そう考えてくれる子を探さなきゃ」

「見つかりそう?」

「たぶんね。今年は、めっちゃ一年生がいっぱい入ってく
れたし、やる気のある子も多いから心配してない」

「あんたも、立派に長の顔になったね」

「あはは……」

長の花。
わたしの後に部長をする子にも、ぜひその花を誇らしげに
胸に飾ってもらいたいなと思う。
その花はたった一つしかないんだ。きれいに咲かせるのは
大変だけど、絶対に素晴らしい花だからさっ!






sz2.jpg

(カンツバキ)





(補足)

鈴ちゃんこと鈴木則子は、いっきの後の部長さん。
派手なところはなくて、真面目で責任感が強くて一本気で
すね。
なんでも抱え込んでしまう欠点はいっきが最初から心配し
てて、その解消のためにいろいろとアドバイスをしていま
す。

鈴ちゃんの一番の右腕はジェネラルマネージャーの四方く
んなんですが、四方くんは業務過多でいっぱいいっぱい。
鈴ちゃんのサポにまでなかなか手が届きません。
そこを副部長の菅生くんが地味ぃに埋めています。

鈴ちゃんはグリーンフィンガーズクラブの一員でもありま
す。
長の肩書きを外してしがらみのないフリートークができる
場所を確保した方がいい。
そういういっきやしゃらの配慮ですね。







Mountain Top  by Chris Christian

 


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