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三年生編 第94話(6) [小説]

学校から帰った僕は、自分の部屋の窓を開けて暮れかかっ
た空を見回した。

「もう……これから秋、なんだよなあ」

すっかり涼しくなってきた夕方の風。
それに吹かれながら、今日の受賞発表のことを思い返す。

僕やしゃらが始めて、鈴ちゃんたちがしっかり受け継いで、
たくさんの一年生を迎えてでっかい花を咲かせたプロジェ
クト。
僕らは、何かを引き継ぐっていうことの大切さを身をもっ
て思い知らされて来た。

プロジェクトからの卒業が目の前に迫ってきた今。

僕は、なぜプロジェクトを後輩たちに受け渡してこれたの
かなあと、その理由をじわっと考える。

「……」

正直に言おう。
僕の思いつきがプロジェクトとして膨れ上がっていく間
に、中庭に関わることが僕が楽しいと思えるレンジを超え
ていってしまった。

鈴ちゃんが責任の重さに耐え切れなくて泣いたみたいに。
僕にとっても、プロジェクトの総責任者の立場は重くて苦
しかった。

でも。

僕は、プロジェクトを投げ出してしまおうと思ったことは
一度もない。
どんなにモチベーションが下がってる時も、どんなに困難
にぶち当たっている時も、もう止めようと思ったことは一
度もない。

それは責任感とか義務感とか、そういうものとは違う。
僕が面白いと感じることが、作庭そのものではなく人に
移っていったからなんだ。

ものすごく入れ込む子。
どっか冷めてる子。
真面目すぎる子。
ちゃらんぽらんな子。

意識もやる気もばらっばらの子が、プロジェクトっていう
容れ物に入った途端に生き生きと動き始める。

なぜばらけないんだろう?
なぜ衝突しないんだろう?
それが不思議で不思議でしょうがなかった。

僕は……そこが楽しかったんだ。

同じ学年の子たちとわいわいやる。
それがスタートの時の形だった。
そこには横糸しかないから、年をまたいだらすぐにばらば
らになりかねなかった。
生徒会の木崎先輩に指摘された通りだ。

でも鈴ちゃんたちが入ってきて、縦糸が通った。
そうしたら、横糸の意味をもっと深く考えられるように
なった。

今、縦糸と横糸がしっかり組み合わさって、すっごいきれ
いな模様が浮かび上がってる。
そして、タペストリーはまだ編み終わっていない。

縦糸が途切れても横糸が足りなくても、きれいな模様は作
れない。
でも、どういう糸をどれだけ使えるかは、初めからは決め
られないんだよね。

それなら、その時その時に使える糸でどういう模様を作れ
るか考えよう。必要なら解いて編み直そう。

そこが……僕にとってのプロジェクトの楽しさだったん
じゃないかと思う。

「ふう……」

僕という縦糸と横糸は、もうすぐプロジェクトのタペスト
リーから抜かれる。
記録や記憶としては残るんだろうけど、これからプロジェ
クトを引っ張る子にも、僕にも、それはあんまり意味がな
いかなと思う。

それより。
僕は、楽しいから編み続けようというモチベーションを残
していきたい。
そして、それを引き継いでいって欲しい。

たくさんの失敗と試行錯誤の先に、ちょっぴりの成功。
それで……かまわないと思う。

だって、同じ庭は作れない。
どんな庭であっても関わったメンバーが全力をぶち込めた
なら、それが彼らの庭だ。

新しい模様を。
四季と同じように変化していくタペストリーを。
ぽんいちに集う生徒と先生に見せ続けられること。
その縦糸がこれからもずっとずっと続いていくことを。

僕は心から祈る。



komat.jpg
今日の花:コマツナギIndigofera pseudotinctoria



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コメント 2

mitu

家の近所のコマツナギは種になっていました^^
by mitu (2019-12-18 23:28) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

マメ科の野生植物は、タネがおもしろいですよね。
タンキリマメやヤブツルアズキのタネを採りに行きたかった
なあ……。

by 水円 岳 (2019-12-19 22:59) 

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