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三年生編 第94話(3) [小説]

こほんと一度咳払いした校長は、大きな声で鈴ちゃんを呼
んだ。

「ハートガーデンプロジェクト部長、鈴木則子さん!」

「はい!」

「登壇してください」

鈴ちゃんには知らされてなかったんだろなあ。
ちょっと慌てた様子で、鈴ちゃんがステージに上がった。

校長に一礼した鈴ちゃんに向かって、校長が右腕を差し出
した。

「素晴らしいチャレンジです。受賞、おめでとう!」

その手をがっちり握り返した鈴ちゃんが、声をあげて泣き
出した。それから、右手をぽんと突き上げた。

「みんなにっ! ありがとおーっ!」

わあっ! ぱちぱちぱちっ!
体育館の中が歓声と拍手で埋まる。
僕も……ぐっと胸が詰まった。

うん。部員にありがとう、じゃない。
みんなにありがとう。そうだね。

プロジェクトメンバーの目が、いつでも生徒や先生の方を
向いていたからこそ、プロジェクトの活動はずっと熱を失
うことがなかった。盛り上がったんだ。

満足げにうなずいた校長が、まだ目を擦っていた鈴ちゃん
に声をかけた。

「今月末に、東京で受賞式があります。その時に、本校の
代表として堂々と成果を披露してください」

「はいっ!」

わお! 授賞式かあ。すげー。

まだ興奮していた鈴ちゃんがのしのしとステージを降りた
あと。校長は、すかさず次の爆弾をぶちかました。

「素晴らしい話の後で、お小言は言いたくないんですが」

やっぱりかあ……。

「プロジェクトの活動にも、これまで何度か逸脱行為があ
りました。ただし部長をはじめとする各部員が、自分たち
の行為の意味と影響を考え、クリーンな活動にしようと努
力して来たんです。それは、プロジェクトが今年組み直し
になったことでも分かると思います。実に見事な襟の正し
方でした」

校長の表情が見る見る険しくなった。

「彼らの筋の通し方が、四角四面で馬鹿馬鹿しいと思って
いる生徒さんがもしいるのなら。それは、今のうちに考え
直していただきたい。いいですか?」

「みなさんが卒業後に直面する世界は、校則以上にルール
に厳しいんです。それは法律云々ということだけじゃない。
基本的な社会通念、倫理観。そういうものも含めてです」

「過ちを繰り返せば、どんどん社会の中での自分の位置付
けが下がります。そこから盛り返すのは、うんと難しくな
るんです」

ぎん!
校長が鋭い視線を巡らせる。

「それを……ここにいる間に、しっかり心に叩き込んでお
いてください」

校長が背広のポケットから白いメモ紙を取り出して、ぐ
るっと見回した。

「悪意をもって行われなくても、校則違反は起きてしまい
ます。友達の誘惑、危機意識の甘さ、感情や衝動を制御出
来ないこと……」

「でもね。どういう理由があっても、結果をひっくり返す
ことは出来ません。事実として、出来ません。それをしっ
かり肝に銘じてください」

「いいですか? 人は結果しか見ません。それが全てなん
です」

そのあとで校長がぶちかました爆弾は、はんぱなもんじゃ
なかった。

「私が何を言っても脅しだろう。そう取られると困りま
す。私は事実しか言いませんよ」

「夏休みの間に二十数件もの重大な校則違反が摘発され、
学校側では違反者に厳格な処分を出しました。しかし、そ
の処分に効果がないのであれば、もっと実効のある処分に
切り替えなければなりません」

「違反が長期の休みに集中したことを鑑み。これから一年
間みなさんの意識に改善が見られなければ、来年の夏休み
を廃止します」

ぎょええええええええええええええええええええっ!?

「いいですか? もう一度言います。私は事実しか見ませ
ん。みなさんそれぞれに、校則を守るということの意味を
今一度考え直し、自分の身を自分で守るためにはどうすれ
ばいいのかをしっかり考えてください」

「これで、本日の朝礼を終わります」

あっさり。
無表情のまま、校長がすたすたとステージを降りた。



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