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三年生編 第93話(8) [小説]

うん。
不思議だよなあ。

もし。もしも、だよ。
高校入ったばっかの時に街中で後野さんと出くわしていた
ら、僕らは敵対していたかもしれない。
あの双子と鉢合わせた時みたいに、敵意剥き出しでしょう
もない削り合いをして。
せっかくの高校生活を、台無しにしていたかもしれない。

でも僕らが出会うまでの間にたくさんの出来事があって。
その間に僕も後野さんも変わった。
だから、ああいう建設的な話につなげられるんだよね。

僕らが過去を全部清算したなんて、とっても言えないよ。
まだ、いっぱいガラクタを背負ったままさ。
だからやり場のない怒りが処理できなくて、サンドバッグ
にぼかあんと出た。

でも、怒りをぶつける相手が人じゃなくてサンドバッグ
だったのは……僕らが少しマシになったってことなんだろ
う。

信用とか信頼を裏切られたことには、すごく腹が立つ。

でもさ。
じゃあ、僕らは偉そうに言えるような過ごし方をしてきた
かっていうと……微妙。

なんでも許すわけにはいかないけど、でも僕らに裁く権利
があるわけでもない。
中沢先生が、部員同士で責め合ったらだめだよって言った
意味。そこなんだ。

たとえ部長だろうがマネージャーだろうが、学生としての
立場には何も差がない。それなのに上下関係の押し付けを
やってしまったら、ゆるさが売りのプロジェクトが壊れて
しまう。

マネージャーの四方くんに与えている部員排除の権限。
それはあくまでも最後の手段であって、最終兵器が一度も
使われないってことが一番望ましい。
単なる抑止力で終わって欲しいんだよね。

まあ、そこらへんは中沢先生がよく分かってるでしょ。

「やっぱ、フォルサ行ってよかったなー」

体をしっかり動かせたってだけじゃない。
大場さんと試合して、後野さんとぐちりあって。
そこに人の気配があること。心の交流があること。

ずっと机に向かっているだけじゃ絶対に手に入らない栄養
がもらえること。そこがいいんだよね。



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