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三年生編 第93話(1) [小説]

9月6日(日曜日)

「えらい……こっちゃ」

せっかく会長のお子さん誕生で盛り上がってた気分が、
いっぺんにぺしゃんこになった。

いや、処分くらった生徒の中に関係者がいなければまだ静
観出来たんだけどさ。プロジェクトの一年生男子が入って
たんだ。

一人だけだったけど、それは言い訳にならない。
当然、顧問である中沢先生にも監督責任が及ぶ。
先生、顔面蒼白。

でも部としての組織的な違反じゃないし、考えを切り替え
た方がいいっていうのが僕ら三年生部員の総意だった。
その代わり、処分をくらった生徒にはしっかり釘を刺して
くださいとお願いした。

僕らが足並み揃えて先生のサポートに動いたから、安心し
たんだろう。中沢先生は、落ち着いて対処してくれた。
こういう時には、付き合いが長いメリットが出るよね。

処分は三日間の停学。
内容は私服での深夜徘徊で、補導員による補導。
場所も禁止されてるゲーセンだったし、弁解の余地なし。

鈴木さんと四方くんとで事情の聞き取りをしたらしいんだ
けど、中学時代の友達が家に遊びに来て私服のまま一緒に
外出し、そのあと遅くまで繁華街を連れ回されたらしい。
まあ、ありがちな違反だ。

「同じ部員同士で責め合ったらだめだよ」

中沢先生から的確なアドバイスがあって、鈴木部長はこれ
から気をつけてねであっさり収めた。

ただ……中沢先生からその子に落ちた雷のでかさは、はん
ぱじゃなかった。
そりゃそうさ。先生の監督責任にまで跳ねちゃったら、先
生の人生設計に影響しかねないもん。

中沢先生の説教は、さすが理系の先生だなあと感じる理詰
めのもので、実にしっかり組み立てられていた。

「君が水やり当番のことを忘れてて、花壇のお花が全部枯
れたら。君は枯れたお花を生き返らせることが出来る?」

水やりをしなかった理由。
かったるくてやってらんないというふざけた理由でも、
うっかりしてたー忘れてたーっていうぽかであっても、そ
れまでみんなが汗水垂らして世話をしてきた努力が全部ぱ
あになるのは同じ。
その事実に、ヘマった理由は一切関係しないんだ。

「君は、どうやっても枯れたお花を生き返らせることは出
来ないの。じゃあ、君がそれを元に戻すにはどうすればい
い?」

うまいなあ……。

そりゃあ、植え直すしかないよね。
それが自分一人でなんとか出来るなら影響は限定的だけど。
みんな総出でやり直すはめになったら、ものすごく無駄な
作業に人とお金を使わなきゃなんない。
自分のしでかしたヘマが、自分のことだけでは済まなくな
るんだ。

いつも、自分の行動の影響範囲を考えなさい。
それは、その子のこれからへの大事なメッセージだよね。

もう一つ。
先生が、例で出した話を通じて違反した子に意識させたこ
とがある。それは、さっきのよりもずっと重要なこと。

「一回水やりサボっただけじゃんか。もし君がそう考えて
たら、君は二度と水やりをさせてもらえなくなるの」

うん。
怖いのはむしろそっちなんだ。

親や先生、友だち。
自分を信頼してくれる近しい人たち。
そういう人たちの信頼を裏切ったら、自分を信じてもらえ
なくなるの。

失った信頼を取り戻すのがどんなに大変か。
それは、親から究極の裏切りを食らって人生をねじ曲げら
れてしまった中沢先生だからこそ、親身に言えること。

だって、先生は二度と自分の親を信用出来ないんだから。


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コメント 2

mitu

どんな過ちや失敗や裏切りも
そうなってしまった原因によっては、許したい
心を入れ替える気づきになったのなら
枯れた花は戻らないけれど・・・

by mitu (2019-11-22 06:58) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

一年生だと、校則の意味や校則違反の影響をよく知らない
でしょうね。だからこそ、処分じゃなくて説諭というこ
となんでしょう。

ただ、高校生への説教は実際のところものすごく難しい
んじゃないかと思います。
半分はもうオトナですからねえ。(^^;;
あ、中沢先生の水やりの話は、あくまでもたとえです。(^m^)

by 水円 岳 (2019-11-23 00:13) 

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