SSブログ

三年生編 第85話(6) [小説]

しゃらと一緒に公開講義を一コマ聞いて、学内施設をいろい
ろ見学したあと、きれいなカフェテリアでお昼ご飯。

「ううー」

「いっき、どしたん?」

「いや、奥村さんからあんなベタな突っ込みが入るとは思わ
なかったからさー」

「うん、わたしもびっくりした。穏やかそうな人だったけ
ど……」

「いや、穏やかな人だと思うよ。でも、穏やかな人だから何
でも認めるってわけじゃないってことなんだろなあ」

「そっか。会長とちょっと雰囲気が似てるかも」

「んだんだ。会長も、普段の雰囲気と中身のごつさがアンバ
ラだもんなあ」

「恋愛レッスンかあ」

しゃらは、お箸を握りしめたままかちんと固まった。

「お遊び……のつもりはないんだけどなあ」

「いや、レッスンに、そういう意味は入ってないと思う」

「そうなの?」

「勉強は、教科書や参考書で覚えたことが試験に出る」

「うん」

「それがレッスンだとしたら、教科書のない恋愛は自分でい
ろいろ試して解を探しなさい。そういうことなんちゃうかな
あ」

「わ! そっかあ」

「奥村さん、厳しいよ。失敗を糧にしないと、学んだことが
全部無駄になるよって、そういう警告だった」

「うん」

「僕らにえげつない警告をしたってことは、大学でその手の
トラブルが多いってことなんだろね」

「うー、そっかあ」

「まあ、僕らがそれを今から心配したってしょうがないよ。
こなしながら、歩いていくしかないもん」

「あはは。そうだよね」

二人して奥村さんとの会話を思い返していたら、その奥村さ
んが再び登場した。

「おや、工藤さん。いかがでした?」

「あ、奥村さん。いろいろ見せてもらいました。思ったより
もずっと堅実だなあって」

「そう感じていただければ嬉しいです」

食べ終わった食器を乗せたトレイを乗せた奥村さんは、それ
を回収台に置いてまた戻って来た。

「あの、奥村さん」

しゃらから質問が出た。

「なんでしょう?」

「オープンキャンパスって、もっと華やかなのかなあと思っ
ていたんですけど……」

しゃらの突っ込みに苦笑した奥村さんは、カフェテラスの中
をぐるりと見回した。

「お化粧は、すぐ剥げるんです」

「お化粧、ですか」

「そう。大学は、自由で華やか。そういう明るい面だけをこ
ういう機会に植え付けてしまうと、学生の行動をコントロー
ル出来なくなる。それは、のちのち私どもの首を絞めるんで
すよ」

「あ……」

「本学は高い就職率を売りにしていますが、そう出来るのは
学生さんの努力あってこそです。きついカリキュラムにして
いるのもそうです。決して有名大学ではない本学で学ぶこと
には、最初からハンデがある。それを実感していただくため
に、誤解を与える要素を出来るだけ排除しているんです」

なるほどなあ。

「学校のクオリティを高めて、イメージを改善する。そう簡
単なことではありませんよ」

奥村さんが、ふうっと大きな溜息をついた。


nice!(60)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 60

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。