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二年生編 第80話(4) [小説]

三十分くらいして北尾さんがうちに着いたから、そのまま伯
母さんのところに誘導する。

しゃらは来てるんだろか?

「お、来たか」

呼び鈴を鳴らしたら、りんがぬっと出て来た。

「しゃらはもう来てるの?」

「来てるよ」

気まずいなー。

でも、腹をくくるしかない。

「お邪魔ー」

リビングに入る。

まだべそをかいてたらしいしゃらが、じっとうつむいてる。
ジェニーはどうしていいか分かんないって感じだ。
ばんこがやれやれって感じで、そっぽ向いてる。

雰囲気悪いなー。
でも、しょうがない。
北尾さんに話し掛ける。

「ジェニー以外はプロジェクトメンバーだからいいよね。
ジェニーは前に話してた僕のいとこ」

全員着席したところで、りんが仕切った。

「で、どうすんの?」

「その前に」

僕は北尾さんに確認を取る。

「もうちょい、詳しく聞かせて。それで対応変えなあかんと
思うから」

「……はい」

ちょっと言いずらそうに、それでもぽつぽつと北尾さんが事
情を訴える。

要約すると……。

期末テストが終わって夏休みに入ってからも、寝太郎から勉
強教えてくれーコールが毎日かかってた。
クラスに馴染むきっかけを作ってくれた恩義を感じてた北尾
さんは、可能な限り寝太郎のリクエストを飲んでた。

ところが……。

最初の追試が惨敗だった寝太郎のリクエストが、だんだんエ
スカレートしてきた。
一時間くらい勉強見てって感じじゃない。
朝から晩まで、べったりと一緒にいるのを要求される。
それも勉強だけでなくて、いろんなところを引っぱり回される。

ゲーセンやら、映画やら、食事やら。

北尾さんは、精神的に追いつめられてきた。
なんとか断りたいけど……。

ってなわけ。

ばんこが頭を抱えてる。

「あんの、ばかったれーっ!」

「まあ、寝太郎だからなあ。瞬ちゃんの説教さえスルーする
んだぜ。北尾さんじゃ絶対に歯が立たないよ」

「だよなー」

いくつか確認しよう。

「北尾さん、ちと微妙なこと聞くけど、対応に関わるから教
えて」

「……はい」

「寝太郎に対して恋愛感情は?」

うつむいた北尾さんが、しばらくしてから小声で答えた、

「いい人だと思うけど……ないです」

「おけー」

りんに突っ込まれる。

「いっき、なんでそんなこと聞かなあかんの?」

「寝太郎の方にその気があるかもしれんから。あとで、釘刺
すのに考慮せんと。まあ、あいつはカノジョ欲しがってるだ
けで、そんな深く考えてないとは思うけどさ」

ばんこが呆れる。

「遊びたいだけ?」

「そ。まあ、黒ヤギみたいに下心むんむんてわけじゃないと
は思うけどね」

「げー」

ここまで。
しゃらが無気味なほど静かだ。
口も挟まない。リアクションもない。

あーあ……めんどくせー。

「で、どうすんの?」

改めて、りんに聞かれる。

「北尾さんが直接言えなきゃ、僕から爆弾落とすしかないで
しょ? それ以外になんか手段ある?」

みんな、黙ってしまう。

筋から言えば、同じクラスのばんこがつきまとうなって言っ
てあげるのが一番分かりやすい。
でも、ばんこと北尾さんのつながりが薄い。

北尾さんが普通にやり取りできるメンバーは、まだ体育祭の
時のバレー班のめんつだけなんだよね。

そうしたら、もう選択肢がない。
事情を知ってる僕が、泥を被るしかない。

ったく。

僕は寝太郎んとこの連絡先を知らないから、まっしーのとこ
ろにかけて、それを聞き出した。

どれ。
ぴっぴかぴっと。

「沖田でーす」

ぐだぐだな声が流れて来る。

「あ、寝太郎? 真っ昼間から寝てたんかい」

「んー、だれー……って、工藤か」

「たるそうだな」

「たりぃ。べんきょーしたくねー」

気持ちは分かる。

「なに。遊ぶハナシ?」

「んにゃ。おまい、北尾さん引っぱり回してるだろ」

「……」

「いい加減にせ。俺が最初に事情説明したのをさっくり無視
しやがって」

「よけいなお世話だ」

「あほ。俺は最初に言ったよな。正規の理由なしに学校休め
ば、北尾さんは退学だ。おまいがその引き金引くのか?」

「う……」

「ちったあ、事情ってもんを考えろ。俺の言ったことを無視
するなら、おまいの二回目の追試はめちゃくちゃしんどくな
ると考えろ」

「どして?」

「北尾さんに手伝ってもらえなくなるぜ。それに……」

「……」

「俺は、校長から北尾さんのサポートを頼まれてるんだよ。
おまいのちょっかいでせっかく馴染んできてる北尾さんが崩
れたら、そいつを校長に報告しないとならん。それでいいの
か?」

「げ……」

「おまいはいいやつなんだけど、ちょっと常識がすっ飛んで
るんだよ。カノジョをゲットしたいんなら、少しはその辺り
を考えれ」

「わ、分かった……」

「夏休みの間は、北尾さんへの直接連絡を禁止する。北尾さ
んに教わりたきゃ、俺を通せ。調整しちゃる」

「すまん……」

「どうしても勉強で切羽詰まって来たんなら、北尾さんより
数段強力なのを準備しといちゃる。一週間は眠れなくなるく
らいのをな。がんばってけれ」

「わ、分かった」

ぱち。

 



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