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二年生編 第80話(1) [小説]

8月9日(土曜日)

あー、むかむかするっ!
昨日寿庵の前でしゃらに言われた皮肉。
それが心に突き刺さって、気分が悪くてしょうがない。

しゃらのあの極端な嫉妬癖は、どうにかならんのか!

昨日寿庵の前で、すっごいぎすぎすした雰囲気になった。
あの時は、口を開いたら刺だらけの言葉しか出そうになくて。
僕は黙ってしゃらの家の前で、二人と分かれた。
実生がおろおろしてたけど、僕自身でもこのむかついた気持
ちをどうにも出来ない。

悪いけど、今日はジェニーの相手はしゃらに完全に任せる。
りんたちもいるんだから、レディース同士で仲良くやって欲
しい。
夕方ジェニーがうちに戻ってくるまでは、僕は完全にオフに
させてもらおう。

僕がぶすくれた顔でソファーに寄りかかっているのを、すか
さず母さんに突っ込まれる。

「どしたの。しけた顔して」

「……」

「どうせ、御園さんに突っ込まれたとか、そんなとこでしょ?」

「ちょっと母さん。なんでそんなこと分かるわけ?」

「一発よ。それが一番あんたのナマが出るんだから」

ぐ・さ。

「まあた、御園さん以外の女の子に絡んだんでしょ」

ぐさ・ぐさ。

「懲りないわねえ」

「しゃあないやん! 僕はしゃらの奴隷じゃない。浮気して
るわけでもないのに、がちゃがちゃ言われるのはたまらん!」

「それを、御園さんの前で言いなさいよ」

ぐっ。

「それが相手に踏み込むってことでしょ? いっちゃんが逃
げ回って来たこと」

ぐむむ……。

母さんは、涼しげな顔。

「あんたはいいかっこし過ぎ。もっと生出しゃいいのよ。人
間、そんなに真っ白くないんだから。会長にも言われたんで
しょ? 獣は檻になんか入ってないって」

……。

「ちゃんと、それ見せればいいのよ。そこでの差し引きで、
御園さんも判断するんだから」

「僕には選択権ないの?」

「そんなの、あんたの勝手でしょ。誰を選ぼうが」

「……」

「伴野さんの時もそうだけど、あんたは事後承諾が多すぎ。
御園さんの反応は単なる嫉妬じゃないよ。あんたが他の女の
子に絡んで何かする度に、御園さんには疎外感が残る。わた
しは信用されてないのかって」

「う」

「あんたは、そこんとこが鈍感過ぎ。デリカシーがない」

「……」

母さんの容赦ない突っ込み。

「少しアタマ冷やしなさい」

母さんは、そう言い残して庭に出て行った。
母さんの言うことは正論だ。
でも……。

むしゃくしゃして、ソファーに蹴りを入れる。

ごきっ。

「いてててててっ」

とほほ。


           −=*=−


自分の部屋でベッドに転がって考える。

僕としゃらは、なにか事件とかイベントがある時には結束す
るのに、普通にのんびり過ごせる時にこうやってもめる。
まだお互いの見方が分かってないって言うか、ぶきっちょっ
て言うか。

目が相手から逸れてる時だけうまくいくってのは、おかしい
よなー。

こんなんで、この先大丈夫なんかなあ……。
怒りって言うより、不安がむくむくと膨れ上がってくる。
この前会長がぶっ放した大砲の効果が、しゃらの側で切れて
くるんじゃないか。

後先考えずに不安だけに突き動かされて、しゃらが突っ込ん
でくるんじゃないだろうか?
僕はそれをさばけるだろうか?

はあ……。

げんなり。

エアコンの温度がちょっと低すぎたのか、少し寒くなってきた。
それを調整しようとして、はたと思い出す。

「しゃらんとこ、エアコンなかったんじゃ……」

ジェニーと一緒だろ?
エアコンなしで、熱帯夜なのに眠れたんだろうか?

慌てて、電話を入れる。

「はよー、しゃら」

「なに?」

思いっくそ機嫌が悪い。
むかむかが再現する。
うう、いかんいかん。下手に、下手に。

「しゃらんとこ、エアコンなしで大丈夫だったん?」

「ああ」

つらっと。

「ジェニーが来るってことを言って、お父さんにエアコン入
れさしたの」

そう来たかあっ!!!

「さ、策士やのー」

「冗談じゃないわ。こんなクソ暑い部屋で、エアコンなしで
寝られるもんなら寝てみろってんだ」

おおー。しゃらがぶち切れてる。

「で、なんか用?」

「いや、そのクソ暑いしゃらの部屋で、ジェニーが寝られた
かどうか気になっただけ」

「あ、そ」

ぶつ。

切りやがった。
相当アタマに来てるんだろう。

今これ以上コンタクトを取ったら、大衝突になりそう。
やっぱ、今日は一日クールダウンしよう。

ふう……。

そのまま、何もする気がしなくて昼までずっとベッドに転
がってた。
寝ようと思っても、気がたかぶってて寝付けない。
休んでるのに、疲労感ばっか溜まる。
あーあ……。

「いっちゃーん。昼ご飯だよー」

「うい」

リビングに降りた僕の顔を見て、母さんが苦笑いした。

「まだ膨れてるの?」

「さっき、しゃらに電話したんだけどさ」

「ああ、ご機嫌斜めってことね」

「……」

「放っときなさい。そのうち機嫌直るでしょ」

だといいけど。


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