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二年生編 あらすじ(9) [あらすじ]

二年生編 第百十六話〜第百四十二話 二学期後半 新潟旅行



 修学旅行から帰ってきてすぐの日曜。いっきは、道具屋か
ら預かった二本と自分の持っていた秀峯の供養について、
桐みえり
に相談を持ちかけた。みえりは、父親に製造元の刀
匠に問い合わせるべきだと助言され、それをいっきに伝えた。
 ただ送り付けるだけでなく、供養に立ち会おうと考えたいっ
きは、新潟の三条にある刀匠の家を訪ねることを思い付くが、
みえりはなぜかそれに乗り気で、同行すると言い出す。焼き
もち焼きのしゃらも旅行に誘ったみえりは、とまどういっき
たちをよそに一方的に段取りを進めた。慎重なみえりらしく
ない拙速な行動に、いっきは疑念を抱く。
 いっきもしゃらも新潟行きへの両親の同意を取り付けるが、
みえりが同行する本当の目的が読めず、不安を抱いた。

 旅行の届け出で担任の斉藤に突っ込まれたいっきだったが、
特殊事情を説明して了解を取り付ける。旅行中の当番の交代
を北尾に掛け合ったいっきは、北尾が通訳を目指すことを聞
いて驚くが、自分自身だけではなく周りを見ることが出来る
ようになった北尾の意識の広がりを高く評価する。

 新潟旅行直前、盟友ばんこの浮かない顔に気付いたいっき
は、しゃらを交えて悩みの相談に乗る。てっきり療養中の母
親のことだと思っていたいっきだったが、ばんこの悩みは進
路に絡んだことだった。保育士を目指すばんこの志望校には
受験時にピアノの実技試験があり、独学ではそれをクリアす
るのが難しい、と。
 いっきたちは、喫茶店リドルのウエイトレス佐竹美琴が音
大受験のためピアノを習っていたと言ったことを思い出し、
佐竹に相談を持ちかけた。佐竹の的確なアドバイスと助力の
申し出に、いっきたちは一安心する。

 そして、いよいよ新潟への出発日が来た。待ち合わせ場所
に濃いメイクを施して現れたみえりを見て、いっきもしゃら
も強い胸騒ぎを覚えた。
 新潟に向かう新幹線の車中で、いっきは京都で預かった秀
峯二本をみえりに見せるが、みえりはそれを強く忌避し、姿
を消していた秀峯が怨念塗れの物騒な鋏に変わり果てた理由
を、いっきとしゃらに推測してみせた。

 三条に到着したいっきたちは、刀匠の弥富の家を訪ねるが、
その家が普通の住居であるのを見て拍子抜けする。そして、
三人の前に七代目宗喬こと弥富孝典、八代目宗規こと日浦準
が相次いで現れる。八代目が弥富姓でないことに驚くいっ
きたちを奥の練武場に案内した宗喬は、弥富の刀匠としての
歴史を語り始めた。
 日本刀の構造や作り方を説明した宗喬は、刀匠としては歴
史の浅い弥富家が、刀鍛冶として生き残るために特殊な刀の
作成を引き受けていたこと、その作刀には高い精神性が必要
なため継代を世襲にして来なかったことを明らかにした。さ
らに宗喬は、生活を安定させるために刃物製造の会社を興し
たと述べて、いっきたちを驚かせた。
 技と精神を継げるものが弥富を名乗る。それを証明するか
のように、準規が自ら鍛えた刀を振るっていっきたちに試し
切りを見せた。食い入るようにそれを見つめるみえり。

 宗喬の説明を聞き終えたいっきたちは母屋に戻ったが、そ
こではとんでもない異変が発生していた。部屋中に響き渡る
不気味な金属音。みえりの顔色が変わる。いっきが供養のた
めに持ち込んだ秀峯のうち、京都で預かった二本に取り憑い
ていた邪気が猛烈に膨れ上がり、実体化して災いを振りまく
寸前になっていたのだ。
 家人を避難させ、符で必死に邪気を抑えようとするみえり
だったが、一人では抑え切れずいっきの助けを乞う。邪気の
猛圧に耐えながら、必死に押さえ込もうとするいっき。みえ
りとの連携でなんとか鋏の入った桐箱を符で封鎖することに
成功したが、みえりは応急措置に過ぎないと警告する。

 鋏の邪気を甘く見ていた宗喬だったが、鋏を輩出した家と
しての責任を痛感し、鋏を鍛え直すと宣言して準規に祓いの
支度を命じた。宗喬と準規が鍛冶場の準備に追われる中、み
えりは鋏の邪気が嫉妬から来ることをいっきとしゃらに説明
した後、呪師としての心技体が整わない自分の弱さを吐露し
て意気消沈した。いっきはその姿を見て、強い違和感を覚え
た。弱さを認識していたからこそ、危機から逃げずに果敢に
行動してきたはずの先輩が、今さらなぜ?……と。
 宗喬と準規は、邪気塗れの二本の鋏を全身全霊を注いで数
時間かけて鍛え直し、邪気を祓った。みえりは、その姿を凝
視し続けた。祓いが終わって、鋏がただの鉄片に戻ったこと
を確認した後、宗喬はいっきの持っていた秀峯の残骸を地金
にして、カスタムメードの剪定鋏を作ることを提案した。秀
峯を失うことに一抹の寂しさを覚えていたいっきは、その提
案を聞いて大喜びする。

 祓いが無事に終わって、準規の実家での夕食会に招かれた
いっきたちは、準規が宗喬の会社で技術開発に携わることを
目指して新潟大工学部を受験しようとしていることを知る。
いっきは、将来構想がしっかりしている準規に強いコンプレ
クスを感じ、祓いが終わったにも関わらずみえりの緊
張が全く緩んでいないことにも強い不安を覚えた。

 翌朝。前日以上にきっちり白塗りメイクを施したみえりを
見て、いっきの不安と緊張が高まる。宗喬が所用で家を離れ
たあと、入れ替わって現れた準規に、みえりが居合いの試技
を見たいとねだった。練武堂の前で真剣による見事な試技を
見せた準規。だが、みえりは準規に突如とんでもない依頼を
切り出した。『目』を斬ってくれ、と。
 いっきはみえりの目論みを全て覚り、そして後悔した。先
輩のあの化粧は死化粧じゃないか。なぜ、最初から気付けな
かったのか、と。

 状況が分からず狼狽した準規に、みえりが『目』の説明を
始めた。母親から受け継いでしまった望んでもいない能力。
人の念が見えてしまうこと。それがゆえに気味悪がられ、友
人が出来ず、ずっと孤独であったこと。そして、自身も『目』
に見せつけられる念の恐怖に怯えていたこと。みえりはそれ
を涙ながらに切々と訴えた。恐怖を克服する切り札だったは
ずの祓いも、弱さが克服出来ないみえりには使いこなせない。
いっきはみえりの深い絶望を思い、打ちひしがれる。

 見えない『目』を斬る。みえり本人を斬るわけではないこ
とを知って安心した準規だったが、刀を振るう場所がみえり
の眼前であることを知らされて、激怒する。俺を人殺しにす
るつもりか!……と。みえりの依頼をにべもなく拒否した準
規に絶望して、みえりは自死をほのめかした。それを、必死
に止めるいっきとしゃら。
 だが、準規が突然翻意した。やるよ、と。しかし、みえり
を引っ叩いた準規は、確たる理由もなく人に危険な依頼をす
るのは失礼だとどやす。なぜ、俺、なんだと問う準規。みえ
りの答えは……準規が好きだから……だった。それを聞いた
準規は、惚れた女の頼みは断れないと、みえりの依頼を引き
受けた。あまりに急転する展開に呆然とするいっきとしゃら。

 そして、みえりと準規は『目』を斬る儀式に臨んだ。いっ
きとしゃらはただ見守るしかなかった。
 みえりが全身全霊をかけて自分の怨念を着せ、実体化させ
た『目』。いっきに憑依していたようこのサポートもあって、
準規の渾身の一撃が『目』を見事に切り裂いた。血涙を流し
て倒れたみえりを助け起こそうとしたいっきは、準規に突き
飛ばされる。「触るな! それは俺の女だ!」

 留守中に準規がみえりに向かって真剣を振るったことを知っ
た準規の父親と宗喬は揃って激怒し、準規を激しく叱責した。
意識を取り戻したみえりは、もう『目』がないことを知って
喜びのあまり嗚咽を漏らした。
 みえりは化粧を落とし、準規を責め立てていた宗喬と準規
の父に向かい、平伏して陳謝した。全ては私のわがままから
出たこと、責任は全部自分にある、と。そんなみえりを庇う
準規に激怒した父親から鉄拳が飛び、殴られた準規は思わず
反駁した。惚れた女の命がけの頼みは断れない、と。
 みえりも、祓いと『目』を失って自分には何もなくなった、
それでもいいのかと準規に下駄を預ける。好きになるのに理
由なんかない! そう即答した準規の胸に、ためらいなく飛
び込むみえりだった。

 準規の行動が腑に落ちない宗喬は、いっきとしゃらを鋏工
房の墨尾のところに案内する車中で、みえりと準規の間にな
ぜ接点が出来たかを問うた。いっきは、みえりが『目』を祓
える人材を探したものの準規にしかその可能性がなかったこ
と、そして迷いのない準規と優しいみえりが、互いに自分に
ない素養を見たのが恋愛感情に高まったのではないかと推察
した。納得する宗喬。
 墨尾の工房で、いっきだけでなくしゃらも鋏を打ってもら
えることになり、しゃらは大喜びする。
 工房から宗喬の家に戻ったいっきたちは、しゃらの父親が
発注しようとしている理容用の鋏の見本を宗喬に見せてもら
う。しゃらは家庭の事情を語り、崩れそうだった自分の家が
いっきたちの活躍で立ち直ったことを嬉しそうに語った。
 夕食の時に、宗喬にしゃらとの将来のことを聞かれたいっ
きは、初めてはっきりと将来二人で歩いて行きたいというこ
とを公言した。ただし、今はそれを始める時期ではない、自
分たちはまだそんなに強くないと、自分としゃらに言い聞か
せた。
 その夜。就寝しようとしていたいっきの元にきっちり服を
着込んだみえりがこそっと訪れ、コンドームをせがんだ。驚
いたいっきに、準規と今後のことを話し合いたい、そのため
にラブホに泊まると説明するみえり。いっきは、約束のため
に体を許すのかと咎めたが、みえりは準規のことを全て知り
たいだけと笑い飛ばした。
 みえりと準規が出かけたあと、今度はしゃらが部屋に来る。
いっきは、友人としての関係はこれで終わりにしようと切り
出す。二人での将来に向けて新たな関係を築く。その意思を
確かめ合う二人だった。

 翌朝。朝帰りした準規とみえりを巡って日浦家は大騒動に
なっていたが、なぜかそれを面白がる宗喬。宗喬は、いっき
としゃらを連れて日浦家に乗り込んだ。準規の父親は、準規
とみえりが結婚して独立すると宣言したことに大慌てしてい
た。いっきは、宗喬が準規たちの味方をすると思っていたが、
宗喬は逆に二人を世間知らずとこき下ろした。頭を冷やして
よく考えろと、若者四人だけにして部屋を出る宗喬。
 部屋に残されたいっきとしゃらは、焦るなと二人を諭す。
偉そうにと不快感を示した準規を言葉でも力でもねじ伏せた
いっきは、準規がみえりを支配してしまうのはまずいと訴え
た。それでは命をかけて『目』を切った意味がないと。
 いっきはみえりの今後が心配だったが、もう関与は出来な
い。準規の両親にみえりの生い立ちを説明し、みえりが抱え
続けてきた寂しさに理解を求めるのが精一杯だった。いっき
はみえりが今回の件を親に伏せるであろうことを予測し、み
えりを孤立させないために、みえりの親に顛末を報告する決
意を固めた。
 墨尾の工房で秀峯に代わる新たな剪定鋏を受け取ったいっ
きとしゃらは、出来栄えの素晴らしさに感嘆し、大喜び。だ
が新潟から帰る新幹線の中で、自分たちの見えない未来に焦
燥感を募らせるのであった。
 田貫市に戻った二人は、その足でみえりの実家に向かった。
いっきは、みえりの両親が準規とみえりのマッチングを期待
していたと予測していたが、両親が揃ってみえりの抱えてい
た深刻な絶望感に全く気付いていなかったことに呆れ返る。
 みえりは自分の目を斬るために弥富を訪ねたのだといっき
に告げられた両親は激しく狼狽するが、みえりが本懐を遂げ
たことを知って安堵する。親子の間の意思疎通が不十分だっ
たことを素直に認めた父親(片桐揺錘)は、今後について娘
としっかり話し合うことをいっきとしゃらに確約し、二人は
胸を撫で下ろした。
 縁を切ると忌み嫌われる刃物がみえりと準規の縁を繋いだ
ことに、二人は不思議な感覚を覚えた。

 あまりに濃い新潟旅行から戻ってすぐ。進路に関する予備
面談があり、いっきは自分の進路を仮決めした。その直後、
みえりがいっきとしゃらを自宅に呼び出した。いっきのお節
介に腹を立てていたみえりだったが、準規との婚約をいう形
を取ったこと、ただし将来結婚まで辿り着くにはいくつもの
ハードルを越さなければならないこと、そのもっとも間近な
ものが大学受験であることを明かし、決意を新たにした。み
えりの強い意思を見せつけられ、いっきは気後れする。
 自分の意思をもっと強くしなければならない。いっきは自
分自身にそう言い聞かせるのであった。折しも、それはいっ
きの十七歳の誕生日であった。




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